久しぶりに楳図かずお先生の作品を紹介。トラウマ必至な絵が表紙を飾る「恐怖」です。正確には「高校生記者シリーズ」と言われていた連載作品を、単行本収録の際に「恐怖」と改題して出版したそうです。
みやこ高校の新聞部に所属する荒井エミ子と青木夏彦の周りで起こる、様々な恐怖の体験談を描いた短編作品集になっています。
恐怖と一口に言っても、幽霊やモンスター、小泉八雲の「怪談」を漫画化したものや、女性同士の心理や美醜をテーマにしたものまで、とにかく多彩。オーソドックスな展開のものもあれば、名作と評価できる秀逸な作品も数多くあり、とても完成度が高い短編集だと思います。
1960年代後半に描かれた、先生が一番脂が乗っていた時期の作品ですので、絵も非常に美麗(ただし初期の方は、少女雑誌で描いていた可愛らしい絵柄)です。
全21話を一つ一つ語っていくとキリがないので、特に好きな作品を挙げると。
◆雪女・・・小泉八雲の「雪女」が元ネタ。冬休みに夏彦はクラスメイトたちとスキーをしに行ったが、水島と加藤の男子二人は遠くの方まで行き遭難してしまう。かろうじて山小屋を見つけて避難するが、あまりにも自分たちの今の境遇が「雪女」の話に似ているので、そこで雪女の話を思い出すという展開に。これ以降はあの物語がそのまま楳図先生の絵で再現されています。そしてその回想が終わったところで、二人の前に雪女が現れる・・・。
◆魔性の目・・・高熱で失明した少女・直美の夢枕に不気味な目玉をした老人が現れる。老人は、その目を自分で引っぺがすと、直美の目に無理矢理くっつけてしまう。その日から直美は目が見えるようになったが、同時に邪な心を持つ人間が醜い化け物の姿に見えるようになる。そして密かに思いを寄せる光夫と仲良くしているミスみやこ高校のえり子も、何故か気味の悪い姿に見えてしまうのだった・・・。
この化け物のデザインが、どれもとてつもなくぶっ飛んでいて気持ち悪く描かれています。笑
そのせいか、とてもショッキングな印象が強い作品。
◆うばわれた心臓・・・ミステリークラブの女性徒たちが百物語をすると聞き、エミ子も参加する。99話目の番が回った瞳(ひとみ)はネタ切れだったので、仕方なく自分の体験談を語り始めた。それは大の仲良しだった御山多加子(みやまたかこ)との間に起きた恐ろしい出来事だった・・・。
女の友情は儚いもの。心臓を取り出すシーンなどグロテスクな描写が多いですが、やはり巨匠たる所以でしょうか。全く気持ち悪く見えず、むしろ丁寧に書き込まれている分、とても綺麗に見えてしまいます。後年で描かれた「神の左手悪魔の右手」のグロ描写よりかは安心して見れるかな。と言っても内容はとても怖いのですが。
◆こわい絵・・・こちらの元ネタも小泉八雲の「破られた約束」又は「破約」。みやこ高校の若教師・江夏の妻は病気で余命が僅かと悟り、夫が自分を忘れないようにと、花嫁衣裳を纏った健康な自分の自画像を描き切った後、絶命する。絵は妻の願い通り部屋に飾られたが、その絵の手には何故か短剣が握られていた。それから後、江夏は卒業した教え子と再婚。幸せな日々を過ごしていたのだが、穏やかな表情をした前妻の自画像が、段々と般若のような恐ろしい表情に変わってきたことに新妻は気づいた・・・。
高校を出たばかりの女生徒と教師が結婚するというのは、この時代では普通だったのでしょうか。だとすればいい時代ですよね。
原作の「破られた約束」は後味の悪い内容ですが、男と女の考え方の違いを見事に言い当てた一文で締め括っています。このラストの一文を初めて読んだときは、雷に打たれた様な衝撃をくらいました。男女平等が悪い意味で横行している現代でこそ、是非とも読んでもらいたいですね。
男と女は違うんです。女は女に嫉妬するのです。
こちらは秋田書店から出ていた絶版のサンデーコミックス版。実を言うと、最初にこちらを買ってから復刻版を入手しました。3巻の表紙ですが、同じ絵柄なのに復刻版よりもこちらの方が物凄く怖くないですか?(クリックするともう少し大きいサイズで見れます)今は慣れましたけど、最初は3巻の表紙だけはまともに見られませんでした(・ω・;)
この版には第2話の「悪魔の24時間」が収録されておらず、その代わり3巻には高校生記者シリーズとは関係の無い「灰色の待合室」が掲載されています(これも面白いです)。この話はまだ復刻されておらず、今では読むのが困難な作品になっているようです。
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